ケンカが強いと言われていた。
でも彼は、そう言われるからそんなフリをしていたけど
本当はちっともケンカなんかしたくなかった。
力持ちで心根の優しい奴だった。

3年前、四半世紀ぶりに再会した彼は
同級生と結婚していた。
当時、結婚して間もなかったわたしに
「結婚の先輩のおれがその秘訣を教えてやる」と一言。
「そうやね、うんうんって、奥さんの話をきいてあげること」
運転する大きな車のハンドルを切りながら
天気の良い秋の日に
助手席に座るわたしへ嬉しそうに話した。
あの日の空はどこまでも青く
真っすぐ伸びる田舎道はどこまでも続いていた。
明日が今日と同じように訪れるとは限らない。
朝目が覚めて大切な人が近くにいること。
愛すべき仲間がいること。
それが当たり前でないことに気づかされる瞬間。
全身の力が抜ける。
彼を胸に刻み明日への一歩を踏み出すこと。
それが全てだと思う。
精一杯生きぬいてやる。
友よ。やすらかに。