家族経営で約半世紀営業していらした老舗店は、
還暦前の二代目社長の判断によりその歴史に幕を閉じることに。
その仕上げはとても丁寧で、
プライドを持って仕事をされる姿はまさにプロフェッショナル。
最後の今日の日にご挨拶させて頂きました。

わたしが今の町に住まわせてもらうようになり約3年半。
その殆どの日々、
仕事で使用する衣装は全てお願いしており、
とてもお世話になっていました。
親父さんの代で創業し、
かれこれ半世紀の歴史を誇り、
還暦前でいらっしゃる現在の二代目マスターになり数十年・・・
近隣住民の絶大なる信頼を得て、
これまで長きに渡り営業していらっしゃいました。
二代目マスターはいつも控えめで照れ屋で、
通い始めた最初の頃は、
ちっとも話をしてくれませんでしたが、
その内にポツリポツリとお話をしてくださるようになり、
それがじんわりと嬉しかったのをよく覚えています。
いつも会話の口火を切るのはわたしのほうだったのですが、
通い始めて2年半程経った頃、
初めてマスターの方から一言お尋ねの言葉を頂きました。
「何か・・・舞台に立つようなお仕事をされていますか?」と。
そう聞かれた理由は、
わたしがお願いしたシャツに、
メイクの時に使用するドウランがついていて、
それを落とすのに少し苦労されたのがきっかけで、
職業の事情を訊いてくださったようです。
恐らくは・・・
そんなことが数度続いて、
初めて言葉にされたのだと思います。
わたしのような人間に、
そんなお気遣いをくださる必要などないのですが・・・
そんな顧客を慮り、
余計なことは極力口にしない姿勢にも、
感銘を受けたものです。
職人気質のその店は、
親父さんも二代目のマスターも、
仕事に対する情熱は人一倍で、
だからこその周囲から大きな信頼を寄せられていたのでしょう。
わたしが店の閉店を知ったのは今年の8月初旬のこと。
なんだかとてもショックでした。
閉店に至った事情は存じ上げませんが、
のっぴきならない事情があるに違いありません。
二代目マスターは、
「辞めるならこのタイミングしかありませんでした」と仰っており、
本当に大きな決断だったことが伝わってきました。
店をたたむ最後の今日の日。
ご挨拶に伺わせて頂き、
親父さんと二代目マスターとお話をしていて、
頼もしく嬉しかったのは、
「まぁウチみたいな店は、
その辺りの店とは仕事の質が違うから。
お得意さんには高い質でご提供するクリーニングの店が
一つなくなるってことでご迷惑をお掛けしますが、
約1カ月後に、
2代目マスターの従兄が、
ここをついでお店をすることになりましたので、
そちらの方でまたご贔屓にお願いします。
でも、その店も、
2回〜3回出して良くなかったら、
使うのを止めてもらって構いませんから(笑)」
こんなウィットと、プライドと、
愛情に満ちたコメントをくださったことです。
親父さんも二代目マスターも、
何かやるべきことがおありになるのでしょう。
それが何なのかは知る由もありません。
お世話になった方の人生の岐路に直面し、
覚悟を持って生業を全うするその意味を、
若輩ながらも感じさせて頂きました。
親父さん、二代目マスター。
これまで本当にお世話になりました。
どうぞ末永くお元気で。
いつかどこかで、
お二人の元気なお顔を拝見できるその日まで。